メモ そういうセカイの理1

「おじさん魔法使えるんだ.ほんと! 魔法使えるなんておじさんは,いいなぁ.僕も使えればいいのに」

少年は見るからに怪しそうな男に問いかけた.

「魔法なんて,決して良い物じゃないよ.むしろあんな物なくなってしまえばいい.そういうものなんだよ」

「考えてみてごらん.魔法って言うのは,もちろん人を幸せにするものもあれば,反対に不幸にするものもある.人を救う物もあれば,人を傷つけるものもある.そういう二つの側面を持っているんだ.そうして,二つの可能性を持っているはずなのに,たいていの場合悪い方に転がる方が多い.全員が魔法を持っているというのは,全員が武器を持っているのと同じ事なんだよ.例えば,この地球にはアメリカという国があるよね.そこでは市民が自分や家族を守るために武器,例えばピストルなんかを持って戦っていい.魔法使いっていうのは,持っている物がピストルだけではなくて,マシンガンだったり,戦車だったり,ミサイル,そして核爆弾だったりする.そして人によって持てる力は,当たり前ながら大きな偏りがあるんだ」

「だから,ちょっとした諍いが起きるとすぐ人の命が飛ぶ.国が滅ぶ.弱い物こそ,最も先に死んでいく.魔法なんか,ない方がいい」

「魔法をみんなが幸せにするために使えないの? ニホンみたいに,法で縛るとか」

「そういう取り組みはいろんな魔法国家がやっていて,最初の内は上手くいくんだ.でも最後には必ず失敗する.最も上手く行った国で200年といった所か.意外と,いや当たり前なのかもしれないが,独裁政権だと長続きする.当然,君主は超強力な魔法使いさ.星なんか破壊できるくらいのね」

「その独裁者の人はどうなったの」

「そいつの名は,アインと言った.確か100年近くは独裁し続けたんじゃなかったかな.それでも,最後は終わった.終わるときは悲惨なものさ,政敵に襲われてただでは死んでたまるかと,自らをエネルギーへと変換したんだ.当然地上は火の玉さ.ひどい話だ」

「だから魔法なんてない方がいいんだよ」

「そうなんだぁ.でも,もし誰かが魔法をこのセカイに伝えようとしたらどうするんだろう.というかおじさん魔法使いでしょう」

「俺は今は魔法使いじゃないよ.ほんとだよ.奇跡なんか期待されてもほんとに困る」

「もし本当の魔法使いがこのセカイへ入ってこようとしているとして,少年が彼らを見ていない以上それを止めようとしている別の誰かがいるのかもね.それこそ正義の味方みたいな.ふふふ.どっちがどれなのかな……」

「それでも,僕は魔法が使えればって思うけどな.自分だけが使えるかもっていうのが,理由かも」

「まあそれなら誰かに傷つけられるっていうのは少ないかもね.でも魔法にはそれ自体が不幸を生む不吉な物なんだよ.もしも,少年が魔法使いになったとしたら,魔法を使うのは最小限に君だけのものにすべきだ.それこそ君のセカイが終わるまで」

「うーん,よくわかんない.でもおじさんがそういうならそうする」

「それでいい.君にアキガマの神の祝福があらんことを.再びどこかこの広い世界の端で会おう」

男は身を翻し,足を踏み出した.

「おじさん行っちゃうんだ.もっと話したかったんだけどな.こんな話ができるの今じゃ,おじさんくらいなんだけどな.どこかで会おうね.ばいばい」

そう言うと少年は,立ち去る男に向かって手を振った,