バッタに魅せられた男の数奇な運命 「バッタを倒しにアフリカへ」

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

はてなではおなじみバッタ博士の本の新刊である.孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)以来の本となる.買おうと思っていたんだけれど,近くの書店のベストセラー1位になっていてすぐに売り切れてしまいなかなか買うことができなかったがやっと買えた.

前回の本では,若手の研究者の専門職が比較的弱い専門書であったので研究についてかなり詳しく書いてあった.たとえば実験室でのバッタの性質などだ.今回は,作者の前野ウルド浩太郎さんのアフリカの小国モーリタニアでの戦いの日々が描かれている.

なんと言ってもこの本で一番のインパクトを与えるところは表紙だろう.私はもう慣れてしまい,この格好の前野さんが目の前を歩いていても平然としていられるが,緑のタイツに緑の化粧,触覚をつけ網を持っている姿は奇妙に映るだろう.

これは決してふざけているわけではなくて,かつて緑の服を着ていた女性がバッタに襲われたのを模倣し,自分も食べられたいという欲望をかなえるための立派な手段なのである (ただし厳密に言うとこの姿は第2フォームであり,バッタになりきっているので食べ物から仲間へとアップデートされた).その企みの成果は本文の最後の方で明らかになる.

前野さんは,実験室で安定してバッタを研究できる環境を捨て,バッタに悩まされているアフリカの当事国へと研究者として旅立った.生物系でフィールドに出ないということがあるのかと我々地質屋は思うが,細分化された分野ならばそれもあり得るのだろう.よく考えてみればボーリングコアを研究している人なんかはフィールドに出ないのがあたりまえである.現地では,お金を多く取られたり,ノミにやられたり,はたまた肝心のバッタがさっぱりいなくなったりと困難に直面しつつも気合いで乗り切っていく様が描かれている.

また研究を進める上で食っていくための職がなかなか決まらなかったりと苦労が語られる.しかし,壁に直面したとき新たな道を探し,そして出会った友や師にたすけられるのだった.

この本では,現地でのバッタに関する発見などが簡単に語られているが,ぶっちゃけるとより詳しい研究の内容は出てこない.それは,後書きで書いているとおり論文として発表していないので詳しく書くわけにはいかないからである.そう研究者は論文でライバルと戦っているのだ.

最後に,この本において多くの写真をカラーで掲載した出版社とすばらしい本を書いた前野ウルド浩太郎さんへ感謝とさらなる健闘を祈る.