「フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体」の感想

フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体 (ブルーバックス)

フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体 (ブルーバックス)

ブルーバックスから最近発売されたフォッサマグナにしか触れていない意欲的な本.

前半 (1-4章) はフォッサマグナとはどういうものかについて初心者にも分かるように説明してある.フォッサマグナは,北部と南部に分かれておりそれぞれ成因が異なる.そしてその成因について先行研究をまとめている.

成因には必ず,日本海の拡大が関わってくるのでそれについても触れている.日本海は,背弧海盆の拡大でできた.そのメカニズムを検討するための類似例として,フィリピン海の例が挙げられている.

ここまでは良かったのだが,ここから雲行きが怪しくなる.

第五章で世界の他の場所にフォッサマグナはあるかどうかの議論に入る.

ここでフォッサマグナは何を指すのか定義していないので,この章まるごとなぜフォッサマグナに当たらないのかよくわからないまま進んでいる.著者は,大きな溝という地形の他に,背弧海盆の拡大などのシチュエーションも含めてフォッサマグナと定義しているようである.私はメランジュと同様に,フォッサマグナに成因を入れるべきではないと考えているので,意見の相違がある.

第六章では成因に対しての持論が展開される.ただ,その持論に対してそれを支持した十分な理由が書かれていないので,なぜその説を推すのかこれがわからない.


結局2000万年という最近に起きたフォッサマグナの形成ではあるが,日本海の拡大とそれに伴う西南日本の回転運動,伊豆小笠原弧の衝突という複雑なイベントを近い時期に経験しており,これが正しいという具体的な案のコンセンサスを得られていないのが現状のように思える.

最近,西南日本の時計回り回転と日本海拡大以後のテクトニクスについてのレビューが地質学雑誌に出たので読んでほしい.無料だ.

中新世における西南日本の時計回り回転

日本海拡大以来の日本列島の堆積盆テクトニクス

今後,時計回り回転の主な時期が15 Maから18–16 Maにより古くなったようにジルコンU–Pb年代測定が比較的若い中新世の多くの地層で行われることで年代論については議論が深まるだろう.

後者のレビューでも伺えるが,それによっていままで単純に思われていたイベントがより複雑だったということが判明することが頻繁にあるだろう.より分析の高度化,そして分野の細分化にもかかわらずそれを研究する学生や研究者が減っていくことが目に見えているのは悲しみ,それでもやりたいようにやるしかない.

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